箇条5では,トップマネジメントがその責任において実施すべき内容のほか、情報セキュリティに対する組織の方針の確立やISMSにおける組織内の要員の役割,責任,権限を明確にして要員に伝達することについて要求しています。
この記事では,「5.2 方針」について,規格要求事項の解説と併せて,ISMSの構築・運用や文書化の際のポイントを具体例や文書例を挙げながら解説します。
規格要求事項の解説
「5.2 方針」では,トップマネジメントが組織のISMSで取り組むべき活動の方向性や実施すべきことを「情報セキュリティ方針」として文書化し,組織内に周知するとともに,必要に応じて利害関係者が入手できるようにすることを求めています。
規格要求事項
5.2 方針
トップマネジメントは,次の事項を満たす情報セキュリティ方針を確立しなければならない。
ISO/IEC 27001:2013(JIS Q 27001:2014)
a) 組織の目的に対して適切である。
b) 情報セキュリティ目的(6.2参照)を含むか,又は情報セキュリティ目的の設定のための枠組みを示す。
c) 情報セキュリティに関連する適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。
d) ISMSの継続的改善へのコミットメントを含む。
情報セキュリティ方針は,次に示す事項を満たさなければならない。
e) 文書化した情報として利用可能である。
f) 組織内に伝達する。
g) 必要に応じて,利害関係者が入手可能である。
いわゆる基本方針ってやつですね?
情報セキュリティ方針は,その組織の情報セキュリティに対する方向性を,組織の内外に示す重要な文書だから,トップマネジメントが確立しなければならないんだよ。
情報セキュリティ方針の確立
トップマネジメントは,組織の情報セキュリティ目的(または,目的設定のための枠組み)のほか,要求事項を満たすことやISMSの継続的改善の実施について,情報セキュリティ方針を定め,文書として宣言や表明することが求められています。
組織の目的との整合(5.2 a)
情報セキュリティ方針は,組織の情報セキュリティに対する意志を宣言・表明するものであるため,組織の目的と整合している必要があります。
情報セキュリティ目的との整合(5.2 b)
情報セキュリティ方針は,「6.2 情報セキュリティ目的及びそれを達成するための計画策定」で定める情報セキュリティ目的を含むか,情報セキュリティ目的の達成のための計画を示すことが求められています。
要求事項を満たすことへのコミットメント(5.2 c)
トップマネジメントは,ISMSの構築・運用に自ら積極的に関与することのコミットメントを,情報セキュリティ方針で表明しなければなりません。トップマネジメントの積極的な関与は,組織の士気を高めるとともに,ISMSが意図した結果を達成するための近道となります。
継続的改善へのコミットメント(5.2 d)
トップマネジメントは,ISMSの継続的改善へのコミットメントを,情報セキュリティ方針に含めることが求められています。組織の目的と整合性のとれた,環境や脅威の変化に応じたISMSへ継続的に改善することについて,情報セキュリティ方針で表明しましょう
情報セキュリティ方針の表明
情報セキュリティ方針は文書化し,利用な可能な状態にするとともに,組織内に伝達し,利害関係者が入手可能であることが求められています。
利用可能な文書(5.2 e)
情報セキュリティ方針は,文書化して利用可能にすることが求められています。
組織内への伝達(5.2 f)
規格では,文書化した情報セキュリティ方針を「組織内に伝達する」ことを求めています。全従業員向けの教育の中で伝えるほか,印刷して組織の施設内に掲示したり組織内のイントラネットやポータルサイトに掲載するなどの方法で伝達します。
利害関係者への公開(5.2 g)
規格では,文書化した情報セキュリティ方針を「必要に応じて,利害関係者が入手可能である」ことを求めています。一般的には,組織が外部に公開しているホームページに掲載する方法が用いられます。
構築・運用のポイント
情報セキュリティ方針は,その組織のISMSの魂といっても過言ではありません。その組織の活動や事業の目的に沿って,どんなISMSにしたいのかなど,自分達の想いを込める重要な文書です。他組織の方針文書を参照して,どのような文書にすればよいか参考にすることは問題ありませんが,方針文書を丸ごとコピーすることはもってのほかです。
情報セキュリティ方針は,その組織の情報セキュリティへの取り組みについての基本的な考え方を組織の内外に宣言・表明する文書となるため,しっかりと魂を込めましょう。
情報セキュリティ方針の策定
規格は,情報セキュリティ方針が「文書化した情報として利用可能である」ものとして,文書化を要求しています。文書には,以下の項目を含む必要があります。
- 組織の目的に統合されたISMSであることの宣言・表明
- 組織の情報セキュリティ目的または情報セキュリティ目的の設定のための取り組みについての宣言・表明
- 情報セキュリティ要求事項に適合することの宣言・表明
- ISMSを継続的に改善することの宣言・表明